商品開発

ブランディングできなかった企業例:売れれば何でもよい?

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「売れれば何でもよい」

以前、とある雑貨メーカーの営業部の役員が、商品の企画開発会議で言った言葉です。

もちろん、経営陣にとって何より大切なのは売上です。
だからといって経営陣が「売れれば何でもよい」と言葉にしたり、実際にそのような方向に動くと、危険なことがあります。

この「売れれば何でもよい」と言った役員と、その雑貨メーカーは、結果的にブランディングを確立できませんでした。
そんな企業の例をご紹介します。

ブランディング 売れない

あと少しでブランディングが確立できたのに・・・

この雑貨メーカーは、1つのカテゴリーキラー商品を生み出すことに成功しました。

さらに、ブランディング戦略のもと、後発商品もヒットしたことで、カテゴリーキラーからカテゴリーブランドへと成長する寸前までこぎつけていました。

あと一つ、ヒット商品を生み出すことができれば、群としてのカテゴリーブランドとなり、業界内におけるポジショニングが確立し、さらなる飛躍が期待できたでしょう。
しかし、そんな雑貨メーカーで営業部役員が「売れれば何でもよい」という一言を発したことで、その商品開発は棚上げとなってしまったのです。

ヒット商品が続いた営業部の過信

ブランディング 営業

ヒット商品が二つ続いたことで、その営業部役員は、「うまく営業すれば、どんな商品でも売れる」と過信していました。

しっかりと時間をかけて商品を開発せず、とにかく商品を仕入れて販路に回し、売上を伸ばしていく。
そんな思惑から、「売れれば何でもよい」という言葉につながってしまったのでしょう。

しかし営業部役員の言葉をきっかけに、新商品の開発は中止。
結果、その雑貨メーカーは赤字に転落して、ヒット商品も生み出せなくなり、苦戦を強いられています。

「売れれば何でもよい」という言葉に見えるものとは

売上をアップさせること、そのためにしっかり営業すること。
これらは決して間違いではありません。どの企業も目標は、売上をアップさせることにあるでしょう。

しかし目先の売上だけに固執してしまうと、長期的な戦略で見ると企業のブランディングにつながることはありません。

それは、「売れれば何でもよい」という姿勢には、企業としての理念よりも、とにかく売上重視の姿勢が見てとれるからです。
自社の商品を消費者に買ってもらうのではなく、消費者に買わせるという、ある種の傲慢さが感じられます。

この雑貨メーカーはあと一歩で自社をブランディングできるところまで来ていただけに、残念です。

ブランディングに成功した『龍角散』

カテゴリーキラー商品はあったものの、次のヒット商品を生み出すことができずに、なかなかカテゴリーブランド化ができず、社内では「新商品は開発しなくても」というムードがありながら、カテゴリーブランドを確立できたのが、株式会社龍角散です。

「ゴホンといえば龍角散」という有名なキャッチフレーズは広く知られていますが、そんな龍角散にも、実は苦戦していた時期がありました。

ブランディング 龍角散

ヒット商品の上にあぐらをかく会社

大ヒット商品となった龍角散も、1970年代に入ると売上が下がり、1990年代に入ると売上と同程度の負債(約40億円)を抱えることになってしまいました。
龍角散というカテゴリーキラーの人気商品を持ちながら、結局はカテゴリーブランド化ができませんでした。

そんななか、1994年にプロのフルート演奏者としても活躍する藤井隆太氏が、株式会社龍角散に入社。翌年には社長に就任しました。

藤井隆太氏の入社時、龍角散以外の商品を開発していませんでした。
ここで新社長は「のど専門のメーカーだからこそできることがある」と主張したものの、社内からは反対意見ばかり。

ヒット商品の龍角散があるからと、その上にあぐらをかいていたのです。

「のど専門メーカー」としての成功

しかしここで龍角散は、新たな商品の開発に成功します。

1998年、介護の現場を見て、飲み込む力が衰えている高齢者たち向けに、飲み込みやすいゼリー『嚥下(えんげ)補助ゼリー』を開発したのです。

さらに2001年には、子供向けには錠剤や粉薬を混ぜるだけで飲めるゼリー『おくすり飲めたね』も開発。
このように、「のど専門メーカー」としてゼリーを開発していきました。

これらの商品は大ヒットを記録。その後、「龍角散」というブランドを武器に様々な商品を開発、成功していきました。

ヒット商品を3つ作る理由

株式会社龍角散は「龍角散」というブランドの元、ヒット商品を続々と生み出しました。
すると、“のどに強い龍角散”というブランドイメージが定着します。
次第に消費者には「のどのことで困ったら龍角散を頼ればよい」というイメージが浸透し、「のどといえば龍角散」となりました。

つまり、会社を「のど専門メーカー」としてのポジショニングを作り上げていったということです。

それは「売れれば何でもよい」という姿勢ではなく、同じ「のど」のカテゴリーでヒット商品を3つ生み出すというブランド戦略によるものです。

ブランディング ヒット商品 数

カテゴリーブランドの強みとは

ブランディング戦略として、同じカテゴリーで「ヒット商品=カテゴリーキラー」を3つ以上生み出し、カテゴリーブランドを確立することのメリットとは何でしょう?

カテゴリーブランドを確立すると、まず「あの会社は○○を作っている会社だ」というイメージが広がります。
龍角散の場合は、「のどに優しい」「のどが痛い時には龍角散」といったように、「のど専門メーカー」イメージがつきました。

すると、以降に生み出した商品でも「龍角散が出しているものなら、のどに優しいのだろうな」とのイメージを、自然と消費者に抱かせることができます。
結果、その業界における会社のポジショニングが確立されていくのです。

ブランディングで営業戦略を立てやすくなる

カテゴリーブランドを確立するメリットの一つとして、「営業戦略も立てやすくなる」という点が挙げられます。

営業担当の社員は、自社商品やサービスの強みをアピールし、その商品・サービスを売っていかなければいけません。

しかし「売れれば何でもよい」という言葉を発した雑貨メーカーの営業部役員は、おそらくマーケティング視点やブランディング戦略を持っていなかったのでしょう。
結果的に新しい商品を生み出すことができず、会社は赤字に転落してしまったのですから。

一方、カテゴリーブランドを確立していれば「弊社は〇〇を作っている企業です」「今後も〇〇が欲しいときには、ぜひ当社で」と、営業でアピールすることも容易になります。
また、カテゴリーブランドが確立することで、社員が会社に誇りを持ち、会社全体の一体感を生み出せることもまた、大きなメリットです。

ブランディング  営業戦略

大切なのは長期的なブランド戦略

ブランディングで大切なのは、「売れれば何でもよい」ということではなく、自社の強みとしてアピールできる商品・サービスを生み出すことを、長期的な戦略として求められていることです。

そのためには、3つ以上の「ヒット商品=カテゴリーキラー」を生み出し、カテゴリーブランドを確立することが必要です、
カテゴリーブランドを確立できれば、その会社のポジショニングは、ますます強いものとなるでしょう。

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