ブランディング戦略のもと、自社の強みを生かして一つのヒット商品である「カテゴリーキラー」を作ることは大切です。
さらなるブランディングとして、そのカテゴリーキラーをいくつも創り出すことで、「カテゴリーブランド」の確立が可能になり、ビジネスも軌道に乗せることができます。
しかし、なかには最初のカテゴリーキラーを生み出しただけで終わってしまう企業も珍しくありません。
そこで、カテゴリーキラーを生み出してしまっただけで終わり、カテゴリーブランド化に及ばず足元をすくわれてしまった――つまりブランディング戦略に失敗してしまった企業の実例をご紹介します。
目次
イギリスを代表するブランド『バーバリー』
『バーバリー』(BURBERRY)というファッションブランドをご存じでしょうか?
バーバリーはイギリスを代表するファッションブランで、なかでも「バーバリーチェック」と呼ばれる、格子柄はとても有名ですよね。
しかし、このバーバリーという大ブランドをめぐり、一つの会社が大きな苦戦を強いられたのです。
ライセンス製造を受けた日本の企業が・・・
バーバリーの日本での展開は、1970年から「三陽商会」が行っていました。
三陽商会がライセンス製造を行い、1996年には『バーバリー・ブルーレーベル(BURBERRY BLUE LABEL)』『バーバリー・ブラックレーベル(BURBERRY BLACK LABEL)』という、若い方向けのブランドを展開し、人気を博していました。
そんな三陽商会によるバーバリーの展開はとても好調でしたが、2015年春夏シーズンを最後にバーバリーとのライセンス契約が終了してしまうのです。
ライセンス契約終了でいきなり赤字に
2015年春夏シーズンにて、バーバリーとのライセンス契約が終了した三陽商会。
あくまでも「ライセンス製造」だったので、ライセンス契約が終了すれば、それ以降はバーバリーの製造・販売が行えなくなります。
結果、ライセンス終了後の三陽商会は売上が半分になってしまい、赤字に転落してしまいました。
かつては1,500億円を売上げていた三陽商会が、ライセンス終了後の2016年には、売上高が約600億円に低下。赤字の額は113億円に。
以降、2度のリストラを断行するほどの苦境に立たされたのでした。
ここ数年、百貨店市場は縮小し続けています。
百貨店市場について詳しくは、こちらの記事もご参照ください。
『消費者から選ばれる店舗になるためには~「よろず屋」はダメ!』
三陽商会は、主な販路が百貨店であったことも売上の減少につながったのでしょう。
しかし、赤字に転落した最大の要因は、やはり2015年にライセンス契約が終了し、バーバリーを取り扱うことができなくなってしまったからに他なりません。
三陽商会の赤字化から学ぶべきこと
ビジネスを展開していくうえで、三陽商会の赤字転落から学ぶべきことがあります。
それは、以下の3点です。
- 一つの商品やブランドに依存しすぎていないか?
- その商品は自社でコントロールできているか?
- 特定の販路に依存していないか?
一つの商品やブランドに依存しすぎていないか?
三陽商会はバーバリーとのライセンス契約に「依存」しすぎていたのです。
一つの商品がヒットすれば、多くの企業はそこに経営資源を投入します。
より効率の良い営業を・・・と考えた時、その考えは決して悪いとは言いません。
しかし、時代の流れとともに消費者ニーズも変化します。
三陽商会はバーバリーとのライセンス契約により、自社のブランディング戦略を進め、「カテゴリーキラー」を作ることはできました。
ところが、そのライセンス契約に、あまりにも依存しすぎていたため、ライセンスが終了した時、手の打ちようがなくなってしまったのでしょう。
その商品は自社でコントロールできているか?
自社でコントロールできない状況にある商品やブランドに依存することは、とても危険です。
三陽商会は先に挙げたようにバーバリー以外の商品開発を怠り、バーバリーへの依存度を高めてしまいました。
そして、依存したバーバリーが「自社でコントロールできないブランド」であった点が大きいでしょう。
三陽商会はランセンス契約を結んでいただけで、バーバリーというブランドも、その商品も、完全に自社でコントロールできるものではありませんでした。
そのような製品に依存していたのは、かなり危険度の高い経営方針だったといえます。
ライセンスだけではない! 仕入先の依存は?
自社でその商品やブランドをコントロールすることができず、売上不振に陥ってしまうリスクがあるのは、三陽商会のようなライセンス契約だけではありません。
たとえば、その商品や材料の仕入先を一社に依存しているケースです。
一時期、日本の自動車産業において、似たような不安が生まれていました。
ハイブリッドカーの生産に必要なレアメタルを中国からの輸入に頼っていたものの、自国での生産消費が増えた中国が日本への輸出を抑えると、日本の自動車企業はハイブリッドカーを生産できない状況に陥ってしまったのです。
その後、日本企業は努力によって調達先の新規開拓やレアメタルを使わずとも製造できる技術を研究しました。
もしも、あの時に手を打てていなければ、三陽商会の二の舞になっていた可能性もあります。
特定の販路に依存していないか?
三陽商会の例でもう一つ挙げられるのは、「販路の依存」です。
バーバリーとのライセンス契約の打ち切りに加え、百貨店の売上不振によって三陽商会は追い詰められました。
それは、三陽商会は販路を百貨店に依存していたからです。
前述のとおり、百貨店市場は縮小し続けています。
しかし、もちろん販路は百貨店だけではありません。
現在はインターネットが普及し、アマゾンをはじめとするECサイトであらゆるものが購入できます。
そんななか、三陽商会は不振だった百貨店を販路の核としていました。
当然のごとく、百貨店の売上が落ち込むと、自らも苦境に立たされました。
これは三陽商会のようなアパレル企業に限った話ではなく、販路も時代とともに変えていかなければいけません。
それではいつまでたっても売れない場所で、お客様を待ち続けてしまうことになるからです。
ここまでご紹介してきたように、三陽商会はライセンス契約と販路、2つの「依存」を行っていました。
もちろん、三陽商会はバーバリーというカテゴリーキラーを持ち、自社のブランディングを高めたことは事実です。
しかし、その成功体験に依存してしまったがゆえに、カテゴリーキラーを群としてのカテゴリーブランドに変えることができず、赤字に転落してしまったことを、経営者はぜひ知っておいてください。