売れないものを売れるようにする、「売れるための」アイデアを社内で生み出すためには、経営者が1つの思考パターンに縛られず、社内全体で意見をぶつけあうことから始まります。
社内で多くのアイデアが出て来たら、次の段階に進んでいきます。
そこで事例をもとに、売れるためのアイデア作りについてご紹介しましょう。
社内で「売れない商品」についての意見を出し合う
たとえば中小企業のH社は、電気はんだごてというカテゴリーキラーを生み出した会社です。一方で、一般家庭向けの小型生活家電の売れ行きに悩んでいました。
H社については、こちらの記事もご参照ください。
『企業のブランディング事例~売れないものを売るためのシナリオ』
売れないものを売れるようにするためには、まず社内で「なぜこの商品が売れないのか」ということを徹底的に議論することから始まります。
まずは社内で、売れない商品について意見を出し合いました。
- 機能が重視されているから、もっと機能を充実させて性能をアップしたほうがよいのではないか
- 大手企業にも負けない特別な機能をつけたらどうか
- やはり、安全性が大切ではないか? 小さいお子さんがいる家庭は、安全性をすごく気にするのではないか
- 商品を購入する人は、アフターサービスを気にしているのではないか? アフターケアが充実していることを売りにしたらよいのではないか
- そもそもブランドイメージがないから売れないのではないか
- やはり、CMなどをやって勝負していく必要があるのではないか
- ブランドイメージが問題なら、そもそも中小企業には、大手企業に勝つのは難しいのではないか
このように、社内で議論すれば様々な意見が出てくるでしょう。
しかし、議論していたのは男性の営業マンが中心でしたので、次に、生活家電の想定ターゲットである20代後半から30代前半のOLや主婦の方が集まる座談会を企画しました。
社内の意見だけでなく社外の意見も聞く
家電を使うターゲット層である20代後半から30代前半のOLや主婦の方を招いて開催された座談会では、以下のような意見が挙がりました。
- 見た目が少し古い
- もっと生活空間に置いてみたくなるようなおしゃれなデザインがいい
- 似たようなデザインばかり
- もっとかわいいデザインなら売れるのでは?
- 高級ブランド品などは、明るいポップなデザインというのは、ほとんどない。どちらかというと、黒とかモノトーンのデザインでもかわいいと思えるのはたくさんある
- 機能は、どこも同じ。日本で売っている家電であれば、最低限の仕事はしてくれると思う。あまり機能を特別にしても、主婦は振り向いてくれないのでは?
- 電気を通すから安全なほうがよいけど、特別に安全だからって、買う理由にはならない
座談会では、OLや主婦は、過剰な機能は求めていないことがわかり、社内の男性だけでは気づかなかった意見が出てきました。
また、安全性については基本性能として押さえても、安全性を強くアピールしても買う理由にはつながらないこともわかりました。
他にも、商品デザイン・・・特に色については、どこのメーカーも同じような色を使っているという印象を持っており、デザインに関しては何かやりようがあると感じました。
ここで着眼すべきポイントは、「生活家電はどこも似たようなデザイン」という印象を持っているということです。
座談会のティータイムも貴重な意見が聞ける
座談会のティータイムも、本音の意見が聞けるタイミングです。
ティータイムなどでホッと一息ついたときに、リアルな意見が聞けるのです。
このような時に、自然に出てくるユーザーの声にこそ、チャンスが眠っている場合が多いので、ここを見逃さないようにしましょう。
実際にティータイムでは、以下のような貴重な意見が聞けました。
- 共働きで忙しいから、パッと使えて、サッと出かけられるようなものがいい(時短ニーズ)
- 朝は、旦那にも家事を手伝ってほしい。いつもうちの旦那はのんびりしているから、ひとつでも何かやってくれると助かるのに・・・(男性ターゲット)
ティータイムで出て来たニーズは、社内会議では全く出なかったものでした。
「時短ニーズ」と「男性ターゲット」、そして「これまでになかったデザイン」という、この3つ新しい切り口をもとに、商品コンセプトを作っていくことになったのです。
社内の意見だけでは限界がある
同じ業界の人や社内の人間だけで延々と考えていても、新しいアイデアが出てこないということはよくあります。
そんな時こそ、社内でもこれまで商品企画に参加してこなかったような人に意見を求めることや、H社のように社外の人に意見を求める場を持つことも大切です。
しかし、実際はその手間を省き、社長の一存で突っ走ってしまうケースが多くあります。
「こうすれば売れる」という仮説を、できるだけじっくりと検証することが成功の鍵となるのです。
一部のセンスのよい社長は、ここに時間をかけて成果を上げています。
中小企業の場合は、大企業のように大がかりな調査は必ずしも必要はありません。
それでも「本当にお客様がそのシナリオで買ってくれるかどうか」を徹底的に考え抜くスタンスは必要不可欠です。
もちろん実際に売り出してみなければわからないこともありますが、しっかりと仮説を立て検証したうえで売り出す場合とそうでない場合は、結果が大きく変わってきます。
仮にあまり良い結果が出なかった場合でも、次につながる検証ができるのです。
重要なポイントは
「仮説をしっかり立てていれば、後からしっかりと検証ができる」
ということです。
仮説をしっかり立てることが、長期的に事業を成長させられるかどうかを分けるでしょう。
カテゴリーキラーをカテゴリーブランド化しよう
中小企業の多くは、ブランドイメージが確立されていません。
だからこそ、その点が強みになることがあります。
それは、ブランディング戦略によって競合他社を圧倒するような自社独自のカテゴリーキラーを生み出す際に、既存のブランドイメージに縛られない、というメリットがあります。そのため、デザインやネーミングなどについても、大きな冒険ができます。
ブランディング戦略として自社独自のカテゴリーキラーを生み出すときには、その会社らしさや強みを活かすことを追求します。
非常に難しいことですが、ここを怠るとカテゴリーキラーではなく、単なるアイデア商品として終わってしまうのです。
それでは、カテゴリーキラーが複数シリーズ化されたカテゴリーブランドに成長することはありません。
仮に、一時的に売れたとしても、その商品を軸に、会社を力強く成長させていく原動力にはならないでしょう。
カテゴリーキラーから、群としてのカテゴリーブランドにするためには、ブランディングを意識して、会社らしさや強み、その商品のポジショニングをじっくり考えていく必要があるのです。