下請けの仕事は年々価格競争も厳しくなり先が見えていることから、下請けを脱却したいと願っている中小企業の経営者は多くいることでしょう。
そこで、過去にご相談頂いたなかから、苦境からカテゴリーキラーを生み出し、下請けからの脱却に成功した中小企業のY社の例をご紹介します。
特許も取ったのに売れない「紙ひも」
以前、講演会に参加してくれていたY社の社長夫人から、「商品が全く売れない」と直接相談を受けました。
Y社は、創業60年以上になる紙加工・製造の会社で、社員数10名ほど。
厳しい状況の下請け業務から脱却したくて、トイレットペーパーのようにぐるぐると巻かれている手のひらサイズの「紙のひも」を作りました。
紙のひもは「万能」紙ひもと書かれており、特許も取得して期待していたのですが、全然売れず、会社も困窮している状態でした。
商品は素晴らしいのに、なぜ売れないのか?
Y社の社長に話を聞いてみると、このようなお話でした。
「この紙ひもは、特殊な加工技術を使った素晴らしい紙ひもです。特許も取った特殊な紙ひもで、何でも結べるし、丈夫で切れにくい。また、結ぶだけでなくてクラフトアートや工作など、趣味でいろいろ使えます。お客様の用途にあわせて自由にいろいろと使ってほしいと思っています」
紙ひものパッケージに書かれた「万能」という文字には、いろいろと使ってほしいという社長の想いがこめられていました。
そして単刀直入に、現時点でどの店舗でどれくらいの量が売れているのかを聞いたところ、社長は黙ってしまいました・・・。
奥様の話によると、紙ひもは地元のホームセンターに納めているけれど、納めたまではいいが全く売れていない。
1回納品したあとは、時間が経っても次のオーダーが来ない状態だということ。
結果、どれくらい売れているかと言えば、月に数個売れていれば良いほうであり、本当に困っている様子でした。
そのような厳しい状態ではありつつも、今後はもっと紙ひもが売れて欲しいと切に想っていること、全国のホームセンターなどに飛び込みで営業に行こうと思っていることなど、社長の熱い想いとやる気が伝わってきました。
しかし、今地元で売れていない商品を持って他のお店に売り込みに行っても、「現在どれくらい売れていますか?」と聞かれることがほとんどでしょう。
現時点でほとんど売れていない商品を売り込みに行ったとしても、門前払いになるのは目に見えているのです。
そのことを伝えると奥様は覚悟を決めたようで、「うちに正式にブランディングの指導をして下さい」とお願いされました。
奥様は、Y社はこの紙ひもに社運をかけていることや、社長もこれまでにいろいろと挑戦してきて、他にも特許を出している商品もあること、ここでどうにかして下請け業から脱却する糸口をつかみたいという熱い想いを語ってくれました。
社長は物静かですが、これまで並々ならぬ想いで努力をされてきた方です。
加えて、そんな社長を身近で支えてきた奥様の言葉から、たくさんの想いが伝わってきました。
ターゲットとニーズをしっかり考える
早速、売れないひもを売れるようにするための仮説作りが始まりました。
このときに考えるべき基本は、やはり「ターゲット」と「ニーズ」です。
紙ひもが、誰のどんなお役立ちになるかという事を徹底的に考えます。
紙ひもの開発の背景、使用感、想定ターゲットの声などを踏まえながら、いろいろな仮説を立てました。
競合商品とのバランスの中から、もっともこの商品がお役に立てそうなターゲットとニーズを絞り込んでいきます。
ターゲットの絞り加減も大切であり、狭すぎてもお客様の数が減ってしまいますし、広すぎると多くの競合商品に埋もれてしまいます。
その後、自分もその商品を使ってみながら、何度かY社とやり取りしていく過程で、紙ひもを売るための仮説づくりが少しずつ進んでいきました。
プロジェクトの成否は、この仮説づくりで決まると言ってよいほど、重要なプロセスです。
Y社の紙ひもは、絞り込んだいくつかの仮説の中から「新聞や雑誌などの古紙を回収する際に、くくるための紙ひも」としてコンセプトを定めていきました。
もちろん、コンセプトが定まってからも、じっくりと時間をかけて真剣に検証していく日々が続きます。
検証していくうちに、大きなメリットがわかりました。
一般的な古紙回収用の紙ひもというのは、細くて手に食い込んでしまい手が痛くなってしまうというデメリットがありましたが、Y社の紙ひもは手が痛くならないという特徴がある紙ひもだったのです。
Y社がこれまでに培ってきた特許技術で、紙に特殊な加工をしていたために可能となっていました。
そこでY社の売れない紙ひもは「古紙回収用の、にぎっても手が痛くならない平らな紙ひも」として、これまでのコンセプトをがらりと変え、パッケージデザインなども大きくリニューアルしました。
月に数個しか売れなかった商品が・・・
「古紙回収用の、にぎっても手が痛くならない紙ひも」としてリニューアルした商品は、全国のバイヤーが集まる展示会を利用して発表しました。
展示会では、Y社の小さな展示ブースに全国のバイヤーさんが押し寄せどんどん注文が入り、何年も売れなくて滞留していた紙ひもの在庫は一気になくなりました。
Y社の売れない紙ひもは、ブランディング戦略によって商品をリニューアルし、結果的に大ヒット商品になったのです。
経営者の強い想いが成功をもたらす
Y社の紙ひもの大ヒットには、ちゃんと理由があります。
それは、社長と奥様が常に一生懸命であり、紙ひもにかける想いがとても強かったということです。
その後もY社の紙ひもは、在庫が一時的になくなっただけでなく、どんどん売上もアップしていきました。
月に数個しか売れなかったこの紙ひもは、なんと月に1万個売れる立派なカテゴリーキラー商品として成長していき、Y社は下請け企業からの脱却に成功したのです。